君が思い出になる前に…
だけどそれは、全てを知ったから言えるだけなのかもしれない…。
絵美も紀子もその全ては知らない。お互いに半々しか知らない訳だ。
全部知っているのはおれだけか…。
そもそも、過去の別の世界に来たって事は、歴史を変えなければいけない、何か将来に不都合な事があったからなんじゃないのか?
紀子には紀子の事情、おれにはおれの、過去の事実を変えなければいけない何かが…。
しかし、それが分からない限り何の解決にもならない。
ヒントもなければ、啓示もない。
だとすれば、やはり成り行きに任せていいって事なんだろうか?

今頃未来はどう変わっているんだろう…。
たった一週間でだいぶ様子が変わったんじゃないだろうか。このまま戻る事なく、15年を繰り返してしまいそうな気になってきた。
そう言えば紀子が言っていた。
若さと幸せをもらえたと…。
やり直しの効く世界…か。


ちょうどこの世界にきて、一週間目の朝になった。
今日も姉さんの声に起こされた。
この世界にきて、わずか168時間しか経ってないのに、ずいぶん長くいる気がしてきた。
元の世界自体が、夢だったんじゃないだろうかと思えるほど。
30歳の自分が、夢の中の出来事だったみたいに…。


教室に入ると、紀子はもうすでに来ていた。
「おはよう」
いつものように、変わらない笑顔で言ってくれた。
「おはよう…」
まるで昨日の事なんて無かったかのように、ごく普通の顔をしている。こんなに簡単に気持ちを切り替えられるんだろうか?
「落ち着いた?」
なんとなく言葉に出てしまった。
「うん、昨日はありがとう」
明るい顔で紀子が言った。
「あ、う、うん」
自分で聞いておきながら、聞くんじゃなかったと後悔した。なんて奴なんだ!おれって…。
優しさのかけらもないのか?
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