君が思い出になる前に…
気がつくと見た事のない白い天井が視界に入ってきた。
「気がついた?」
聞き覚えのある声。「母さん…?」
「ここは?ここどこ?」
「うちの病院よ。あんたひどい無茶したねぇ」
母さんが呆れ顔で言った。
「病院?」
「そうよ」
「絵美は?絵美は見つかった?」
母さんは、おれの腕に何か注射を打った。
「痛っ!」
「まだみたい…」
うかない顔をしている母さん。
「まだみつからないの?」
起き上がろうとすると、母さんに止められた。
「あんたは寝てなさい。まだ無理よ」
「でも絵美が!」
「祐作が行ってもなんにもならないでしょ!」
「だけど、じっとなんてしてられないよ!痛て!」
頭が痛い!
ん?包帯?
「多分、気を失って倒れたときに頭を打ったのね」
「頭を打った?」
「そうよ。近所の人がね、あんたを見つけてくれて、救急車を呼んでくれたのよ。四針縫ったわ…」医者の顔をしている母さん。
不思議な感覚だ。
「今何時なの?」
「10時よ。夜のね」「10時?どれぐらい気を失ってたの?」「さぁ?ここに来てから7時間経つから、それより少し前からだね」
軽く言ってのけてるけど…。
そんなに経つのにまだ絵美は見つからない?
どこに行ったんだろう…。

「院長先生、お電話です。杉下さんとおっしゃる方からです」
病室の外から看護士が言った。
「絵美の?」
再び起き上がろうとして、また母さんに押さえつけられた。「あんたはじっとしてなさい。いいわね」
そう言って、病室から母さんが出て行った。

じっとなんてしていられる訳ないだろ。痛む頭を抑えながら、病室を出た。
まだふらふらする。

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