君が思い出になる前に…
今日も絵美が、部活動を終えたおれを迎えにきてくれた。
お昼過ぎから、雨が降ってきた。
「傘、持ってきてないでしょ?」
絵美がなぜか嬉しそうに言って近づいてきた。
「うん、持ってきてないよ…」
朝は天気良かったし、天気予報も見てこなかった。
それにしても、なんでこんなに機嫌がいいんだろう…。
教室で色々言われて相当へこんでると思ったんだけど…。
「えへへ」
絵美がいたずらっぽく笑ってる。
「なに?」
「じゃ~ん!これで今日は相合い傘、できるね!」
折りたたみの傘を、自慢げにカバンから取り出し、嬉しそうにおれに見せた。
なるほど、そういう事だったのか。
でも、どうリアクションしていいのやら…。
「凄ぉ~い、さすがぁ」
こんなもん?…。
「なぁに、それぇ…」
絵美は、ご不満だったらしい。
でも絵美といると、ちょっとしたやりとりなのに、それだけで楽しい。
こんな日がずっと続けばいいのに…。


「ねぇ、祐ちゃんの初恋っていつ頃だったの?」
ひとつの傘にふたりで入り、帰り道の途中、突然そんな話しを始めた絵美。
「きゅ、急に何言い出すの?」
びっくりしたおれ。「いいからぁ、いつなの?」
傘を持つおれの腕にしがみついて、絵美がせかした。
「ちゃんと女の子と付き合えたのは、絵美が初めてだよ…」「ホントに?」
「本当だよ!」
事実、おれの15年前は、告白するたびに、ことごとくふられてたからなぁ…。
男子の憧れだった絵美と、まさか交際できるなんて、おれも周りの人間も全く想像すらしていなかった。
あの時は、これが『天にも登る思い』って言う事なんだって思った。

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