君が思い出になる前に…
相合い傘
 紀子がここに居られる正当性を話してあげたかった。
本当の真相なんて、誰にも解りゃしない。
紀子だけの話しではなく、どこかで自分に置き換えたい気持ちがあったんだ。
紀子の不安な気持ちを取り去ってあげる事で、自分の不安を消したいって思っていたのかもしれない。
紀子の不安?
彼女はもう腹を決めてたんだから、不安がってるのは、おれだけじゃないか?…。
情けないなぁ…。おれって。


今日で8日目。
自分で勝手に解釈しながら、何とかこの世界での生活も、だいぶ慣れてはきていたが…、本当は何もわかっていないのが現状なんだ。
なぜこの世界に来たのか、なんの為に来なければいけなかったのか、誰かに教えて欲しいよ。


毎日病院の仕事に追われて、忙しそうにしている母さん。
毎朝早く家を出て、夜7時過ぎまで頑張ってる。家ではその反動なのか、天然ぶりを充分発揮する、のんびり屋の母さん。

大学受験を控えているのに、毎朝おれの分も、弁当を作ってくれる優しい姉さん。家事の全部を母さんに代わり、毎日してくれている、ちょっとだけ怖いけど、美人で、セクシーで、しかも学業優秀。三拍子揃った姉さん。
自分の事なんか後回し、おれの事を何かと気遣ってくれて、泣き虫だけど本当に心の優しい絵美。おれにとってはもう、かけがえのない存在。絵美のいない世界なんて想像できなくなってしまった。

おれに関わるこの世界の人々は、みんないい人ばかりだ。
元の世界に戻らなければならない意味も、思いつかなくなってきた。
そう…。意味が無いかもしれない。


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