君が思い出になる前に…
だから一人一人の過去の記憶が違っていても不思議ではないんだ。
だとしたら、パラレルワールドの意味って違ってくるんじゃないだろうか…。
一人一人に、未知の未来、曖昧な過去が存在するとしたら、それはごく当たり前の事になるんじゃないだろうか。
誰もが持っている可能性って事なのかな…。
そうなれば、もうパラレルワールドとは関係ないのではないだろうか…。
そんななにか単純な事のような気がする。
曖昧な過去と、それぞれ違う未来の軌跡。
歩むべき道はいくつもある。それを選ぶのは自分自身って事なんじゃないかな…。
物理学を持ち出した絵美には驚いたけれど…。

おれの15年後はスーパー勤務。
あの時、もう少し勉強していたら、行く高校だって違ってたかもしれない。違う高校に行ってたら、大学も目指してたかもしれない。
紀子と同じ会社に入ってるのかもしれない。
そういう生き方だって、できるのかもしれない。
いや、『かもしれない』じゃないんだ!
今からできる事なんだ!
悩む事ないんだ。
紀子はもう、それを選んだ。
おれが望んでもいいんじゃないか?
未来に、元の世界に戻れないなら、この世界でやり直せばいいんじゃないか?
おれ、意外とポジティブに考えられるようになってきた。
これってやっぱり絵美のお陰なんだろうか?
それとも紀子がそう決めたからか?
不安な気持ちが薄らいできた気がする。
やり直す事を許してくれたのか?
神様が…。

神様…、か…。
まさかね…。
神様の存在なんて考えてもみた事ないおれが、口にするなんて…。
超常現象とかSFなんかも、ただ面白いってだけで興味はあったが、信じて読んだ事など一度すらない。
心霊写真にしてもそうだ。レンズの汚れとか、露出ミスの光とか、そういうものをまったく疑ってかかって素直に受け入れる事など一度もなかった。

< 88 / 200 >

この作品をシェア

pagetop