君がいなくなって
「総一の、本当のお父さんは俺も知らないんだよ」

最後のレースに出るために移動している車の中で、父さんは話しはじめた。

「お前のお母さんは、俺と幼なじみだった。
お互い、自分の道に進んで何の接点もなかったけど、偶然出会った時にはもうお前を妊娠していた」

俺は淡々と話す父さんをじっと見上げていた。

「男に捨てられた、と言っていた。
そのままではお腹の子供が可哀相だし、お互いフリーなら結婚しよう、って」

その時は言われるがまま、聞いていたけど。

今から考えると、父さんの優しさは尋常ではないな、と思う。

「結婚して、お前が産まれて。
しばらくは幸せだったと思う。
でもお母さんは、お前が3才になる前に出て行ったよ。
他の人の元へ行った。」

それからは父さんと2人で暮らしていたけど。

新しいお母さんが来て。

それからは苦痛な日々。

唯一、父さんと2人で出掛けられるサーキットに行く事が楽しみだった。

しかし、それさえも出来なくなる。
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