リアル☆タイムスリップ
 そして次の日、世話になった神社を後にして、正宗はバスで島原に向かった。
 どうせ駅に行くのも同じ方向だ。
 大門を潜り、今も残る角屋へ。

『はぁ、今の花街はここではないぞ』

「馬鹿。どっちにしろ一見さんはお断りされるよ」

 受付で入館料を払い、中へ入る。

「懐かしい」

 思わず言葉が漏れた。
 夢で見ただけで、こうも懐かしく感じるだろうか。

『新撰組がよく通ったって話はあるがなぁ』

 蛍丸も、疑わしそうに正宗を見る。
 実際の場所に来れば来るほどわからなくなる。

 正面玄関を出たところで、正宗は立ち止まった。
 門柱に顔を近付ける。

「これは……」

 柱に傷がある。
 ここで会った近藤の顔が浮かんだ。

「それ、新撰組が付けた傷なんですよ」

 地元ボランティアの人が、門柱を見ている正宗に気付き、中から声を掛けた。

『まさか、お前が付けた傷なのか?』

 ちょっと驚いた顔で、蛍丸が傷跡をまじまじと見る。
 正宗は軽く首を振った。

「付けたのは近藤だよ」

 ここで、近藤は蜥蜴丸を手にし、刀身を眺めた。
 妖刀・蜥蜴丸の刀身を見たのは正宗と近藤だけ。

 近藤の最期は、新撰組隊士の中でも最も悲惨ではないだろうか。
 やはり蜥蜴丸の呪いなのか。

 刀身を見た者は不幸になるという伝説の妖刀・蜥蜴丸は現在行方不明。
 今は物語の中だけの存在となっている。

 はたしてあれは、存在したのか。
 この手に握ったのは現実か。

「……わからないな」

 門柱の刀傷を撫で、正宗はぽつりと呟いた。




*****終わり*****

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