甘え下手を治すには溺愛を
4.裕:手に入れたオモチャ

 甘えられなさそうな千紗を後ろから抱きしめてみた。

「ほら。こうしたら暖かいでしょ?」

 耳まで真っ赤にしている千紗にささやくと「ひぃっ」って小さな悲鳴が聞こえた。

 やっべ。いいオモチャ見つけたかも。

 いたずら心が芽生えて、試しに提案してみた。

「甘えるのが苦手なら、俺が甘やかしてあげるよ。
 それなら受け身でも大丈夫だからキミでもできるんじゃない?」

「……。」

 返事がない千紗に、あぁと気が付いて腕を離して解放してあげた。
 抱きつかれたまま会話とか、この子にはハードルが高かったよな。

 それでも真っ赤にした顔で口をパクパクさせているだけ。
 笑っちまうよな。

「ごめん。ごめん。
 そんなに嫌だなんて思ってもみなくて。」

 一応、謝ってみると思わぬ返事が返ってきた。

「いえ。…嫌では……なかったです。」

 ハハッ。マジでこの子が『つまらない女』なわけ?
 俺には超おもしろいんだけど。

 嫌じゃなかったんなら。と、もう一度、腕を回そうとしたら遮られた。

「でも、もう結構です。」

 仏頂面で言われて吹き出しそうになる。
 でも、そこは我慢してっと。

 わざと注意してみる。

「ほら。そういうのがダメなんだろ。
 せめて…そうだな。断るの禁止。」

「え?そんなの…無理…デス。」

 なんだよ。
 十分、可愛いじゃん。この子。

 背が低くて、華奢で、ちょっと恥ずかしがり屋。
 柔らかそうな細い髪が肩の上で揺れる。

「大丈夫だって。
 次からは、もうちょっと軽いのから試すから。
 んー例えばほら。」

 俺は着ていたコートのポケットを開いて見せた。

「ここにお邪魔しまーすしてもいいよ?
 っていうか、しなさい。」

 手をつかんで、自分の手と一緒にポケットの中に入れる。
 冷たくて小さな手が俺のポケットの中で縮こまっている。

 うん。なんか気に入ったこの子。
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