彼がメガネを外したら…。
――岩城さんは決して私を、襲おうとも思ってくれないんでしょう?
『人並み外れて綺麗だ』と思ってくれてても、史明にとってそれは何の意味もないことで、気をかけて優しくしてくれても、絵里花はただの〝協力者〟でしかない。
そんなことを思うと、どうしようもなく切なくなって、絵里花は涙を流すだけではなく、声をあげて泣いた。
側にいられる間は、できるだけ近くで、できるだけ史明の力になって、史明の〝歴史〟の中に残しておいてほしいと思っていた。
だけど、それだけでは絵里花の心は満たされない。心も体も、こんなにも史明を求めて叫びをあげている。
本当は、史明には、山川なんかのところへは行かずに、側にいてほしかった。『好きだ』と言ってくれなくても、〝出来心〟でもいい。ただ抱いてほしかった。
ほんのひと時でも触れ合えたら、この切ない心の痛みも少しは癒されたのに……。
それなのに、こんなに〝隙〟を見せていても、史明は指一本触れてくれなかった。
恋人にもなれず、欲情もしてもらえず。……そして、とうとう、協力者だった絵里花も史明にとって必要がなくなる。
もう史明は、この部屋のドアを開いて出て行ったように、新しい世界へと足を踏み入れている。そこは、研究者である史明が求める至高の場所――。