伯爵夫妻の内緒話【番外編集】
「ディルクはこの文字すべて読めるのか?」
「分からない単語もあります。でもそれは調べればいい」
「俺もここの本は読んでみたが、分からないことのほうが多かった」
「フリード様はまだ六歳ですからね。……図鑑もあるじゃないですか。あなたにはこちらのほうがより頭に入ってきますよ」
「俺が子供だからか?」
ムッとしてつっかかると、ディルクは冷静に言い返す。
「いいえ。無理に自分に合わない勉強法をしても意味がないということです。あなたには行動力とよく見える目がある。言葉をたどるよりも、絵で見て、本物を探したほうがよっぽど多くを知ることができますよ」
「……ディルクは大人みたいだな。すごいな」
「僕は小さいときから本が好きなんです。図鑑は三歳のころに読みふけりました。家にはこんなに本がなかったので、同じ本を何度も何度も。読むたびに新しい発見があって楽しかった」
「ふうん」
真面目でお固そうだけれど、ディルクは学ぶことに真剣なんだな、とフリードは思った。
だったらここにいたほうがいい。伯爵家の雇っている家庭教師のゲルト氏は、子爵家の次男で宮廷で研究者として働いていた経歴もある。男爵家が雇うそれよりも学識があるはずだ。
フリードはディルクの服の裾を引っ張った。
「ディルクがここにずっといられるよう、父上に頼んでもいいか?」
「は?」
「俺の遊び相手が嫌なら、勉強相手でいい。剣の稽古だって、たまには同じくらいのヤツとしたいし、乗馬も、いつも俺だけ小さなロバで嫌なんだ。でも二人なら嫌じゃない」
「はあ」
「なっ? いいだろ?」
素直に見上げてくるフリードに気圧されたように、ディルクはたじろぎながら頷いた。
「決まり。早速父上にお願いしてくる」
「えっつ、あの、フリード様」
ディルクが戸惑っている間に、フリードは父や祖父に話をつけてしまい、ディルクは父男爵とともにクレムラート家に通う日々が始まったのだ。