王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です

『あはは、リリーってば。まずは朝食を済まそうよ。着替えも食事も手伝うから』

そう言って屋敷に戻りながら繋いだ手の温かさは覚えていたのに。もしかしたらリリアンは認めたくなかったのかもしれない。弟のように可愛がっていたギルバートが、自分よりずっとずっと優れている可能性を秘めていることを。

今になって考えれば、やはりあれは見間違いなんかではないのだ。

大人になってもギルバートの乗馬の腕は相当のものだし、ファニーに聞いた話によると狩猟の腕前もこの国では彼の右に並ぶ者はいないらしい。

ギルバートは稀有な天才肌であり、そして恐ろしいほどの努力家なのだ。

モーガン邸に来てから初めて馬に乗ったというのは、彼の生い立ちを考えれば本当だろう。それから彼はリリアンに内緒で猛練習をし、あっという間に大人の腕前さえ追い越してしまったのだ。

しかしギルバートがリリアンにそれをひけらかすことはなかった。なぜなら、そんな頼もしい姿を見せてしまったら、甘えられなくなるからに決まっている。

そう考えれば、何もかもが合点がいく気がした。

いつまでたっても紅茶を上手く淹れられなかったのも、怖がりで何かと抱きついてきたのも。それに、リリアンの髪を結えるほど手先が器用なのに自分のクラヴァットは上手に結べなくて、いつもリリアンに直してもらっていたことも。

本当のギルバートはすべて容易く完璧に出来ていたのだろう。そしてリリアンに甘え続けるために、出来る自分を決して見せなかったのだ。

今更ながら、リリアンは彼のすごさを思い知る。ギルバートは頼りない甘えん坊ではない。天才で完璧主義で、かつ計算高い策略家なのだ。
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