花の色は 移りにけりな いたづらに
長い沈黙が流れるーー
「…暁臣さんは『花の色』の歌をご存知ですか?」
「…え?」
一瞬の隙をつき、間合いをとる。
そしてテーブルに生けてある桜の枝に指を滑らせた。
「花の色は 移りにけりな いたづらに
わが身世にふる ながめせしまに ーーー
私は小野小町のように美しくはないけれど、この歌はまさに私自身です」
桜の花に触れると花びらが散った…
「美しい桜の花は、色褪せてしまった。長雨が続いてるうちにーーそしてまた、私の美貌もそんな桜を眺めながら物思いに耽っているうちに衰えてしまいましたーー
この歌のどこら辺が君なんだい?」
暁臣さんがこちらに歩いてくる。
「私があれこれと悩みあぐねているうちに、『花』から『華』になることはもうできなくなっていました。私の『色』はもうくすんでしまったので…」