最愛婚―私、すてきな旦那さまに出会いました
久人さんは顔を上げ、「なんで?」とわかりきったことを聞いた。

抱え上げた私のひざの裏側に、音を立ててキスをする。私はそのさまをはっきり見てしまい、後悔した。この図、耐えられない。


「恥ずかしいからです」

「じゃあ、たくさんして慣れないとね」


温かい唇が、足のつけねのもっと奥、柔らかな部分に触れて、私は身体を震わせた。背中が浮き、枕に頭が沈む。


「汗かいてるよ、桃」

「それは…」

「最初、手足が冷たかったのにね」


緊張していたからです。

彼の言うとおり、枕をつかむ手も、シーツにこすれる背中も、熱く火照って汗ばんでいる。

久人さんは顔が真上に来る位置まで戻ってくると、私の前髪をうしろへ梳いた。


「ほぐれた?」


弾む息を隠したくて、私は黙ってうなずいた。久人さんが、指の背で、優しく頬をなでる。「桃」と呼ばれたとき、これからなにが起こるのか、ふいに強く実感した。


「すごく痛いと思う」

「はい…」

「でも、心配ないから。痛くても大丈夫だから。我慢する必要もないし、やめたくなったらやめてもいい。絶対に桃を傷つけないから」


それまで、案外平気だなと思っていたのに、急にドキドキしてきた。「はい」と返した声は震えていて、久人さんを心配させたと思う。

彼は両手で私の顔を包み込み、まっすぐ目をのぞき込んだ。


「俺のこと、信じて」


ずるいです。

私が信じてほしがったときは、『たぶん』なんて答えしか返さなかったくせに、あなたがそれを言うの。
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