最愛婚―私、すてきな旦那さまに出会いました
けれど感じる。

彼と暮らす日々は、きっと明るくて楽しい。

そう思えることが、すごく嬉しいんです、久人さん。




喫茶店を出て、プランナーさんと別れたところで私の携帯が震えた。


「あっ、叔父さまからです」

「結婚関係の話? なんて?」

「結納の際の、婚約記念品は用意したのかと」

「あー…」


私たちは顔を見合わせた。

忘れていた。

いや正確には、なににしようか決めあぐねて、後回しになっていたのだ。久人さんがうーんと腕を組んで悩む。


「普通は指輪なんだよね? でも桃は、指輪じゃないものがいいんだよね?」

「すぐに結婚指輪をすることを考えたら、あまりつける機会がないものをいただくのも、さみしいなと思って…」

「そういえば俺、この間カタログ見てて、桃によさそうなの見つけたんだよ。重ねづけっていうの? 結婚指輪とこう、一緒につけられる婚約指輪」

「そんなものがあるんですか?」


婚約指輪といったら、立体的な台座にごつんとダイヤが載ったものしかイメージがなかった。


「あるみたい。俺もよくわからないんだけど」


なににつけてもセンスがよく、造詣も深い久人さんでも、ブライダルリングに関する知識はさすがにないんだろう、自信なさそうに首をひねる。


「カタログ、見てたんですか」

「そりゃ見るよ、もう熟読だよ。贈り物は、真剣に探すのが楽しいんでしょ」

「今から、お店に行って探すお時間、ありますか?」


太陽は西に傾き、空には夕暮れの兆しが見えかけている。

久人さんは私のわがままに、ちょっと驚いた顔をしてから、にこっと笑った。
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