最愛婚―私、すてきな旦那さまに出会いました
「いつ頃までにお返事をしたら…」

「うーん、あんまりお待たせするのもあれだから、二、三日中には決めようか」

短い!

私は身上書を受け取り、進展しそうなお見合いに当人よりわくわくしている様子の叔父に「頑張るね」とだけ伝えた。


* * *


「反対!」


千晴(ちはる)さんがマグカップをテーブルに叩きつけた。


「断固反対! どうして顔も覚えてないのに、結婚なんてする気になれるの」

「好青年ていう叔父様のお墨付きだし」

「そりゃ仲人ならそう言うわよ!」

「でも、うわあって思うほど嫌な人だったら、そのことを覚えてると思わない? 記憶がないってことは、いい印象だったんだと思うの」


きれいなボブの髪をくしゃくしゃとかき回して唸っている彼女は、父方の伯母だ。私は両親とも他界しているので、こうして叔父や伯母がよく面倒を見てくれる。


「桃子、まだ二十五でしょ? 焦る歳でもないじゃない」

「じゃあ"焦る歳"っていくつ? 二十八歳くらい? 考えてみて千晴さん。あと三年で、結婚しようと思える相手に出会える可能性なんて、どのくらいある? どのくらいの人がその可能性に賭けて、負けてる?」

「ほんわかした口調できっついこと言うわねー」

「私は自慢じゃないけど恋愛もしたことないし、そもそも男の人にあんまり興味もない。でも人並みに結婚はしたいと思ってるの」

「仲睦まじい両親を見て育ったんだものね、わかるわよ」

「千晴さんと旦那さんも仲よくてすてきで、憧れだったよ」

「ありがと」


きりっとした目が、ふわりと細められた。千晴さんの旦那さんは、結婚十周年を迎える直前に病で亡くなってしまった。

私は千晴さんのカップが空になっているのを見てとり、キッチンに立った。彼女の好きな茶葉をポットに入れ、お湯を沸かす。


「もちろん、会ってみてやっぱり無理だと思ったら、そのときはきちんとお断りしようと思うんだけどね」

「そりゃそうよ。向こうの叔父さんが言えないようなら私が言ってやるわ」


その剣幕に、つい笑ってしまう。子供のいない千晴さんにとって、私は愛弟の忘れ形見であり、実の娘みたいなものなのだ。
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