最愛婚―私、すてきな旦那さまに出会いました
「でも、前向きに考えてみようと思うの。お見合いだからとか、お付き合いが浅いからとか、そういうのって実はあまり問題じゃない気がするんだよね」

「まあ、世の中には一目惚れってものもあるくらいだからね」

「そう。時間をかければその人がわかるってものでもない。相性がよくなるわけでもない。自分の人を見る目が確かだなんて確信もない。だったら人のお墨付きを信じるのもひとつの手じゃない?」

「ペシミストと楽観主義者が紙一重ってことはわかったわ」

「まじめに聞いてよ。一応相談してるんだから」

「聞いてる聞いてる。あんたは慎吾(しんご)にそっくりよ。言い出したら聞かないし、結局その信じるパワーで、物事をいい方向に転がすのよね」


慎吾というのは亡き父の名だ。彼に似ていると言われるたび、私は力が湧いてくる気がする。

千晴さんが、来年五十歳になるようにはとても見えないはつらつとした顔を、仕方なさそうに微笑ませた。


「好きにしなさいよ。私が祈るのは、桃子の幸せだけよ」


私も笑い返した。


「ありがとう」


* * *


好青年は高塚久人(たかつかひさと)さんといった。

でも、あの、叔父さま、この彼は、好青年なんてレベルでは…。


「急な話でごめんね。びっくりしたでしょ」

「はい」


二度目はふたりだけで、と場所を指定されて待ち合わせとなった。場所は都心の老舗ホテルのラウンジ。

向こうの顔がわからない私は、早めに行って、見つけてくれるのを待った。

約束の時刻よりほんの少し前に、「御園(みその)桃子さん?」と礼儀正しい声をかけてきたのは、人を引きつける容姿の男性だった。

背が高いのは叔父の言っていた通りだ。スポーツをやっていたのかな、と想像させるたくましい肩、余裕のある身のこなし。

濃いグレーの三つ揃いを無理なく着こなしつつ、落ち着きすぎている印象もない。
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