最愛婚―私、すてきな旦那さまに出会いました
あれ…な、なんだろう。


「あの、ごめんなさい、自分の話ばかり…」


焦り、頭を浮かせて離れようとした私を、追いかけるように久人さんが腕を伸ばし、両手で抱きしめた。

眠りに落ちる直前の、温かい身体。


「あの…」

「俺、結婚したのが桃でよかったよ」


肩のあたりに吹き込まれる、優しい声。

私は最初、あっけに取られ、その後、感動がじわりと押し寄せてくるのを感じた。

おそるおそる、彼の背中に腕を回す。


「本当ですか…」

「うん」

「あの、私も」


Tシャツを、軽く握りしめた。


「私も久人さんと結婚できて、幸せです」


見えないけど、彼が微笑んだのが、気配でわかった。

私を抱く腕に、ぎゅっと力がこもる。

「おやすみ」と私の髪に柔らかなキスを落とし、腕を伸ばして枕元のライトを消すと、その腕で、また私を抱きしめて、久人さんは眠りに落ちた。


* * *


「で、俺のほうに着信が入ってるっていうね…」

「すみません…」

「しかもこれ、すごい時間だな、朝の5時ってなに」


久人さんがベッドの上で、まだ目覚めきっていない顔で携帯を睨んでいる。


「千晴さん、健康志向なので。朝早く起きてヨガやジョギングをするのが日課なんです」


よく考えたら、昨晩私が返信したときには、彼女はもう寝ていたに違いない。

朝起きて携帯を見て仰天し、久人さんにかけたんだろう。
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