最愛婚―私、すてきな旦那さまに出会いました
すっきりした顔立ちの中、きれいな目は楽しそうに笑っていて、さらりとした髪が眉の上で揺れている。

身上書には経営コンサルティング会社の名前があった。いわゆるサラリーマンと比べると、こなれた風体なのはそのせいだろうか。

よくこんな見とれるほどの男の人を忘れていたものだと自分に感心してしまう。

高塚さんは対面のソファに座り、「正直だね」と笑い声を立てた。


「高塚さんも、形だけとお聞きだったんじゃないですか?」

「うん、そうなんだけどね。会った後事情が変わって、早急に結婚する必要が出てきたんだ」


…おや?

愛想よく笑みを作る口から繰り出されるにしては、引っかかる言葉じゃない?


「誰でもよかったってことですか?」

「え、まさか自分が選ばれたと思ってた?」


ん…。

思わずまじまじ見てしまった正面の顔には、相変わらず感じのいい微笑しか浮かんでおらず、空耳かな、と自分を疑いたくなる。

高塚さんは、軽く開いた長い脚に両肘をつき、こちらを覗き込んだ。


「誰でもよかったんだよ。そりゃ最低限の条件はあったけど。嫁として不足がなけりゃ、そう、誰でもよかった」

「ずいぶん率直なんですね」

「ここで取り繕ったところで、後で苦労するのは自分だからね」


にこっと笑われると、責める気も失せる。この人、曲者だ。

そこに彼の分の紅茶が運ばれてきた。彼はそれに儀礼的に口をつけると、来たばかりなのに立ち上がった。


「出よう。今日は歩くつもりで来たんだ」

「歩く、とは?」

「昼食まだでしょ? 一緒に店を探そう」

「えっ、今からですか?」


こういうときって、予約とかしてあるものなんじゃないの? ぽかんと見上げる私に、明るい声が降ってくる。
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