鬼が往く
巽と倉本が銀二を連れて事務所を出ようとすると、ドアの前に男が立っていた。

根津だ。

彼は、1枚のメモを巽に渡す。

「沢渡をここに連れて行け。歌舞伎町の雑居ビルの診療所だが、腕のええ医者や。必ず治してくれる」

「…ここなら馴染みの女医だ…随分沢渡によくしてくれるんだな」

銀二が事務所に拉致された事を警察に知らせたのも、実は根津だった。

「…俺はソイツとタイマンでケリつける約束しとるんや。つまらん死に方されとうないだけや…それに、寄って集って嬲るようなやり方も、椎名のやり方も、俺は好かん」

「…昔気質の極道だな、お前は」

倉本が微かに笑う。

「フン…好きに言えや」

鼻を鳴らす根津。

倉本は根津に、銀二と似たものを感じていた。

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