秘書と野獣

「莉緒。あいつにとってお前達の幸せは何よりもかけがえのないものだ。そこに一点の曇りもなければお前がそのことを気に病む必要もねぇ。あいつの幸せを願うのなら、自分を責めるようなことはやめろ」
「進藤さん…」

その言葉にぶわりと大粒の涙を溜めたが、キュッと唇を噛んでそれを拭うと、莉緒はニッコリと気丈に笑って頷いた。その姿にあいつの顔が重なり、あぁやっぱり姉妹なんだなと実感する。
根っこの真っ直ぐさと強さは少しも変わらないのだと。

「おそらくそう遠くないうちにあいつは行動に出るだろう。…俺から逃げるために」
「逃げる?」
「あぁ。詳しいことはあいつのためにも言えないが、あいつは俺が求めてるのは自分なんだってことに露ほども気付かない。これ以上ないってくらいに見せてるつもりなんだがな。それで現実逃避するために俺の前からトンズラする気でいやがる」
「と、とんずら…」

莉緒の口があんぐりと開く。

「あいつのことだからお前に何かしらの協力を申し出てくるはずだ。その時は何も知らないふりをして言う通りにしてやってくれないか」
「でも…進藤さんはそれでいいんですか?」
「構わねーよ。どうせあいつは俺から逃げられねぇんだから。今は時が満ちるのを待ってる状態に過ぎない。それまでは好きなだけ泳がせてやるよ。…俺の手のひらの上でな」
「……」

その自信はどこからくるんだと言わんばかりの発言に莉緒も驚きを隠せないでいる。だがそれくらいの自信と覚悟がなけりゃああいつを捕まえるのなんて到底不可能だ。

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