秘書と野獣
「……シャワーは?」
ラブホテルにでも行くのだろうと思っていた予想は外れ、彼が連れて来たのは一流ホテルのスイートルーム。行きずりの女にこんなことまでするのかと驚くと同時に、これが彼にとっての日常なのかと思うと絶望的な気分になった。
そんな感情を振り払うように、部屋に入るなり後ろから大きな背中にしがみついた。
「……いいの…すぐに、抱いて…」
「……」
声が震えていたのに彼は気付いただろうか。
だとしたらどうか気付かなかったフリをして欲しい。
そうでなければ、一世一代の私の勇気は木っ端微塵に砕け散ってしまうから。
回した手に大きな手が重なる。
それが引き剥がされると、彼はこちらを振り返って私の体を引き寄せた。
「……本当にいいの?」
「いい、の。めちゃくちゃに、して…」
はっ…と微かに笑いながら彼が息を吐いたような気がする。
気がするというのは、そこからの記憶が曖昧だから。
次の瞬間には彼に抱き上げられ、私は広いベッドの上へと押し倒されていた。