秘書と野獣

寸分も視線を逸らさずに真っ直ぐに紡がれたその言葉に、またしても私の涙腺は崩壊した。すぐに力強い腕がそんな情けない私の全てを包み込んでくれる。
痛みを感じるほどに、強く、強く。

怖くなるほどの幸せに、私はこれが現実であると確かめたくて、負けじと強い力で大きな背中にしがみついた。

「…っ、ふっ、うぅ゛っ…! しゃちょ…社長っ…!」
「お前なー、ここで『社長』はねぇだろうが。あの日教えてやっただろ? 何て言うんだ?」

「…っ、た、け……たけっ…、たけ、るっ………さんっ…」

「ぶはっ! ドアホ! この期に及んでさん付けはねーだろうが! しかもどもりまくりにも程があんだろ」
「だっ、だっで…!」
「くくっ…。ったく、ほんっとお前はクソ真面目で不器用で、ほとほと手が掛かる奴だよ。おまけにブッサイクな顔しやがって」
「ひ、ひどい゛っ…!」

そっちこそこの状況で相変わらず容赦なさすぎですっ…!

「…けど。どうしてだかそんなお前が可愛くて可愛くて愛おしくてたまらねーんだよ、俺は。もうとっくに他の女なんて目にも入らないくらいに俺の中はお前のことでいっぱいだ。これが愛じゃなかったら何だっつーんだ? …華。いい加減覚悟を決めて俺のもんになれ。…結婚しよう」

「っふっ…う、うぅ゛ーーっ…!」

あぁ、あなたの顔をもっとちゃんと見たいと思うのに。
あなたの言葉を全部聞きたいと思うのに。
ちゃんと笑って答えなきゃって思うのに。
こんな時まで泣いてばかりの自分を情けなく思う。

「泣いてねーで返事しやがれ」

けれど、そんな私を丸ごと愛おしいと思ってくれるあなたを、私も心から愛おしく思う。
この想いは、これまでも、そしてこれからも永遠に失われることはないと誓えるから_____


「はいっ…あなたのお嫁さんにしてくださいっ…!」


涙と鼻水でこの上なくブサイクだろう顔で、私は心からの笑顔で頷いた。

「___いい子だ。いい子にはご褒美やらなきゃな」

そう言って甘く激しいキスを落としたあなたもまた、これまで見たこともないような、まるで少年のような顔で笑ってくれた。

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