誰かを護れる、そんな人に私はなりたかった。




(由樹side)



今日も僕はいつものbarに通って同じ物を頼む。



何人かいるお客さんを横目で見ながら、いつもの席に座って。



横に座っていたお客さんの左手に嵌められていた指輪に視線を移してから……ふと時計を見ると……もうそろそろ燐理が来るであろう時間だった。



大学を卒業した僕は、そのパソコン技術を買われて企業に就職した。



会社に通って、帰り際にbarに寄って燐理と話をする。



それがもうずっと僕の日常。



だけど……たまにおかしな夢を見る。








僕が大学生だった時の夢。



このbarで僕と燐理が話をしていると、不意にbarの扉が開き誰かが入ってきて。



その子に僕たちは微笑み、手を振る。



その子はいつも渋々僕たちの間に座って……。



でも、僕たちの他愛ない話を聞きながらその子は、僕たちに気づかれないように微笑むんだ。



その子が誰なのか知りたいのに……その子にはいつも靄がかかっていて。



どれだけ頭の中で思い浮かべても、その時の記憶はない。



そして、その不思議な感覚は冬の季節に強くなる。








「……誰なんだろう……あの子は……。」








「夢で見る子のことですか?」



「マスターも覚えてないんだよね?」



「はい。あ、でも…………。」



「なに?」



「いつだったか、由樹さんが私に卵がゆの作り方を尋ねてきたことがあります。
理由を聞いたら、

"食べさせてあげたい子がいるんだ。
その子に僕が出来ることはそれくらいしかないから。"って。

結局、その子は誰だったんですか?」



それを聞いた時、胸が苦しくなった。



とても大切だった気がするのに……。



忘れちゃいけないことだったはずなのに……。



どうして僕は、忘れてしまったんだろう。


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