【完】『そろばん隊士』幕末編

徳田に岸島は駆け寄ったが、ほぼ即死であったらしく、すでに息はない。

「…徳田くんは実に勇敢であった」

原田は徳田に合掌をした。

岸島は服部の羽織の袖をちぎると、首を包んで小柄を添えた。

これは敵の首を討ち取った際、羽織か小袖の袖で首を包み、身に付けていた物を添えて物証とする、昔ながらの戦の作法であった。

「岸島くんは、作法をわきまえているなぁ」

後ろにいた永倉が見ていたようである。

「ひとまず引き揚げるぞ」

徳田をはじめ、数人斬られた隊士を戸板に移し、引き揚げが始まった。

「敵の亡骸はいかがいたしましょう」

岸島は訊いた。

「そのまま打ち捨てよ」

またいずれ誰か来る、そのときまた討ち取れば良い、というようなことらしかったが、

「首も置いて行け」

という指示なので、亡骸の脇に添えるように置いて合掌し、油小路を立ち去った。



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