【完】『そろばん隊士』幕末編

他方で芦名のそろばんはというと、出が商家だけに飲み込みは早く、

「これなら酒井さんの穴が埋められそうだ」

と河合耆三郎も、岸島が連れてきた部下の能力に安堵した様子であった。

少しずつ勘定方の仕事を芦名に任せ始めた頃、八番隊に見回りの当番が来た。

組長の谷は、

「岸島伍長の隊と、赤座伍長の隊とで十二人でゆけ」

と命じた。

見回りは基本的に伍長二人、隊士十人が一組で、二組がそれぞれ分かれて見回る。

場合によってはここに副長助勤が加わるが、この日は加わっていなかった。

共に回る赤座伍長は水戸の出で、無念流の使い手だがやや粗暴の気があって、池田屋の頃からいるにもかかわらず伍長どまりという人物である。

赤座にすれば、新参でしかも勘定方でもある岸島と回るのが気に入らないらしく、

「俺は部下と別を見るから、岸島伍長は向こうへ回ってくれ」

などと突き放すような言動をあらわにする始末であった。



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