【完】『そろばん隊士』幕末編
いっぽうの岸島はというと。
おしげに教えていたそろばんは、次第に評判を呼んで寺子屋よろしく近所の子も習いに来るようになっていた。
「岸島さんは子供を手なずけるのがうまいなぁ」
などと沖田あたりなんぞは言っていたが、しかしそろばんがうまいだけの無能な隊士でないことだけは沖田にも察せられたようで、
「岸島さんは、伊東さんをどう思われますか」
と水を向けてみた。
すると。
「沖田どのゆえお答えいたしまするが」
と普段は主義や主張など口にもしない岸島が、
「少なくとも筋が一本通っているのは近藤局長ではなかろうかと存ずる」
伊東の意見はいわゆる変節の理で、人は恩義ある者を裏切ってはならないという近藤の見識を、岸島は認めていたようであった。