【完】『そろばん隊士』幕末編
しかし。
新撰組の公金はこないだの紛失の件で消えた分以外、屯所となっている本願寺の蔵に預かってもらっており、出し入れは必ず勘定方が帳簿につけてある。
しかも最近は島原遊廓へは五十両という大金の支払いはない。
あれば岸島は記憶にあるはずであろう。
「そのさるお方、とやらはさては新撰組を騙る偽物というのではあるまいな」
岸島が怪しんだのはそこである。
何者かが例の公金を盗んだ以上、いつかは必ず出回るはずで、
「そこで足がつけば」
というのはあった。
だが。
島原の名主がさるお方としか言わないのが、岸島にはどうにも引っ掛かるのである。