約束ノート
いつもの夢
五歳ぐらいだろうか?

篠原健太は蟻の行列を笑顔で見ていた。

土で蠢く蟻達は、死骸になった蝶の体の一部を軽々と運んでいる。

健太は蟻達に向かい「がんばれ」とあどけない笑顔で声援を送る。

あと数センチで巣に届きそうだ。

「ぐちゅ!」

健太の耳に、その音が鳴り響いた。

完熟したトマトを握り潰したような、何とも嫌な音だ。

音が聞こえた瞬間、健太は目を閉じた。

そして、ぎゅうっと閉じていた瞳を恐る恐る開けて行く。

健太の前に麻生零士が立っていた。

零士は健太より三歳年上のお兄さんだ。

零士は健太に向かい、口を大きく開き、こう言った。

「ぐちゅ!」
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