東の空の金星
シマが俺の家に住み込みをするようになってから

俺が毎朝早く目が覚めていて、
(昔、桜子の痛み止めが切れてくるのは朝方で、
時折苦しそうにしていたので、俺は薬を飲ませたり、身体をさすったりするのに必ず起きていた。)
シマがパンを作る所を目にするようになると

シマはかなり集中していて、
俺が見ていることは、ほとんど気にならない様子だったから、よく観察できた。

パン生地を専用の道具でカットするときも、
パンを両手それぞれ使って器用に丸め、
それぞれの形に作っていく時も、
ちっとも迷いのない手つきで、
手際よく作業をすすめ、
ただの白い塊だったものが、
次々と新しいものに生まれ変わる瞬間を見ている気分になった。


魔法の手。



本当にそうおもった。

遥香ちゃんに言うと、

「気になるんだ。」とくすんと笑われ、

「普通、気になるだろ。パン職人に会うのは、初めてだし。」

「へええ。」と意味ありげに見つめられたのを思い出す。

俺は自分で気付いてなかったけど、

きっとその頃から、俺はシマに釘付けだったのかもしれない。

< 136 / 189 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop