恋人未満のルームメイト(大きな河の流れるまちで。リメイク版)
まだ、大人の寝る時間じゃないので、
リュウは少し、灯りを落とした部屋で、ソファーの下に座り込み雑誌に目を通したりしているが、
時間で吸入させたり、咳き込む私の背中を撫でたりして甲斐甲斐しく世話をしてくれる。

「お母さんみたい」というと、ふんと鼻をならす。

「迷惑かけて、ゴメン」といったら、
「うるせーよ、早く寝な」と返された。

私はリュウのたてる雑誌をめくる音や、コーヒーを淹れる音を聞きながら安心して、眠りにつく。
時々咳き込むと、黙って、背中を撫でる手の感触を感じて、また、眠った。


朝、目が 覚めると、リュウの腕の中に抱きしめられていた。
リュウは私の背中に胸をぴったりつけて眠っているようだ。
顔が赤くなる。
しばらく動けずにじっとしていると、そのうちリュウが身動きした。
起きたのかな。と思ったら、
私の背中に耳をつけて、呼吸を確認してるみたいだ。


「リュウ」と私が呼ぶと、
「ナナコ、苦しくないか」と私を腕に抱いたまま、聞く。

「すごく、楽になった」と笑った声で返事をした。
きっと、この胸の苦しさは薬では治らない。
もう少し、このまま腕の中にいたい。と思いながら、身体を起こす。

これ以上は甘えられない。
彼には東京で待っている人がいるのだ。
昨日も東京へ行かせることができなかった。

リュウをその人に帰してあげないと、と思う。


「もう、大丈夫。吸入して、薬飲んで、仕事に行く。だから、リュウも東京に帰って」と言えた。

「だからさ、東京での用事はキャンセルしたの。
今週はここにいる。」と笑い、
「ちゃんと、病棟でも、吸入しろよ」というので私は真面目な声で
「子供達と並んでする事にする。」といって、少し2人で笑いあった。
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