恋人未満のルームメイト(大きな河の流れるまちで。リメイク版)
黒い革張りのシートは座り心地がいい。

低くボサノヴァの曲が流れている。
この音楽は、私が部屋で流しているCDだと思う。
リュウも気に入ってくれたのかなとちょっと嬉しい。


「…もうすぐ、再会してから、6ヶ月経つけど、
まだまだ知らないことがあるな」と車の運転をしながら、
私の手に自分の手を少しの間だけかさねて、すぐにハンドル手を戻す。

今日のリュウもちょっとだけ遠慮がちだ。


車だと駅から10分もかからない私のマンションに着くと、
来客用の駐車場に車を止める。

ハンドルに顔を伏せたまま、喋らないリュウの言葉を待っていると、

ふと顔をあげ、
「あーあ、俺は恥ずかしい、
なんで、ナナコの事になると、冷静でいられないいんだ?
37歳にもなって…」と前を向いたまま話しだす。

「美波から夕方メールがあってさ、
今日はナナコと合コン。てへ。
とかフザケルナって感じ?
俺をからかってるって
冗談だって分かってるのにさあ…
気がついたらバイトは後輩に押し付けてさ、車でこっちに向かってた。」


「バ、バイトしてるの?
それに、美波にはただの飲み会って、聞いてたし」と驚く私に

「言って無かったっけ?
産婦人科医の友達の所で勉強を兼ねてバイト。
前の病院はいつも産婦人科医がいたから、ほとんど妊婦見てないし
…うちの救急外来って妊婦も来るだろ。」と、真面目な返事。

てっきり、みんなが噂をしている通り、東京の女がいるのかと思ってました。


「て、てっきり毎週『ヨーコさん』っていう恋人に会いに行っているのかと…」思わずいったら、

「はあ?…陽子は俺の母親だし、電話で、喧嘩してただけだろ、」と呆れ

「なんで、そーなる!?
俺はわかりやすくナナコに迫っていたのに?
ニブイおまえにも絶対分かるように口説いていたのに?」

と機嫌の悪い声でグッと睨んで来る。

ええ?
リュウって私を口説いてたの?
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