王様と黒猫
ネルソン公爵家の令嬢シオンを城から遠ざけて間もなく、内密に貴族院での例の『噂』の調査をこのフィリップに依頼していた。

噂、が何処まで広がっているか確認をしたかったのだ。


「フィリップ」


少し居住まいを正してそう呼ぶと、その空気が変わった事に彼も気が付いたようだった。ぴりっと緊張して背筋を伸ばした。


「ネルソン家の方の調査は続行してくれ。それで、もしバカな貴族どもに不穏な動きがでるようなら……」

「はい、いかがしたらよろしいでしょう?」



「――――お前の判断に一任する」



酷く冷たい言い方になってしまったが、彼もその空気が読み取れたのだろう。少し考えた後、恭しく頭を下げながら答えた。


「御意に……」


フィリップを下がらせ自分も私室へと戻ると、そこにはでかい態度で呑気に本を読んでいるジェイクがいた。ジェイクは俺に気が付くと本を閉じ、座っていた椅子から立ち上がる。

そしていつもの胡散臭い笑顔で、俺がベッドへ座るまでじっと無言で見ていた。


「貴族院の方は、どうでした?」

「相変わらず耳が早いな、ジェイク」

「いえ先程フィリップとたまたま、すれ違ったものですから」

「嘘つけ!」


全部分かっているくせに、そういう見え透いた嘘を平気でつく。ジェイクはいつもそうだった。

分かっているくせに、黙っているのだ。


「貴族院のほうはまだ心配はないようだ」

「そうですか。では、こちらの御報告を……」

「ああ、頼む」




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