王様と黒猫
「も、申し訳ございませんっ!」
あの時と同じように、そう言って慌てて俺の上から降りようとしたシオンの体を、今度は半身だけ起こして抱きとめる。膝の上にいるままかかえるように抱きしめると、彼女は驚いたのかその動きも声も止めた。
「待たせたな、シオン」
その様子に周りの群集が声を上げたが、別に気にならなかった。むしろ煽る様にまた彼女を強く抱きしめる。
「怪我は無いか?」
「陛下……?…………はい」
「遅くなってすまなかった」
抱きしめているので見えないが、シオンのその顔が真っ赤に染まっているのは容易く想像が出来た。そして抱きしめている細い体と漆黒の髪が、愛しい。
「シオン、よく聞いていてくれ」
「陛下……?」
「婚姻を前提に、シオン・ネルソンに正式に交際を申し込む」
シオンの体が一瞬ビクリと震えたが、やがてその手が俺の背中に回され、元々はきちんと整っていたが今は乱れた式服の生地を掴む。彼女の体は震え、いつもじゃじゃ馬のくせに今は泣いているように小さな嗚咽を漏らした。
それをもう一度やさしく抱きしめると、周りの群集からいつの間にか拍手が沸きあがっていた。
目の端に映ったのは、苦笑いをしたジェイクの顔。
そして呑気な黒猫のシオンだけが、彼女に擦り寄ってにゃーと声を上げていた。