身代わりペット
「……千歳……?」

そう。

私やみんなの見間違いなんかじゃなく、千歳がしっかり手を上げて無表情のまま立っていた。

「三嶋千歳……!」

新井麗子がボソッと呟く。

「三嶋…!お前っ!!」

突然、そう叫んだ和矢が顔を真っ赤にして拳を振り上げながら千歳に突進して行く。

「千歳!危ないっ!」

私が叫んだと同時に、そばにいた女子社員が「キャーッ!」と叫んだ。

微動だにしない千歳に急いで駆け寄ろうとしたけど、間に合う距離じゃない。

殴られちゃう!!

そう思ってギュッと目をつぶると、グァッ!と言う声が聞こえて、その後に何かが倒れる音がした。

そーっと目を開けると、頬を押さえながら床に倒れている和矢。

え?と思い顔を上げると、今まで姿を消していた上川課長の姿がそこにあった。

どうやら、寸での所で課長が千歳を助けてくれたみたいだった。

「千歳!!」

私は千歳の元へ駆け寄り、身体をペタペタ触った。

「大丈夫!?ケガはない!?」

「うん、課長が助けてくれたから大丈夫」

「……良かった」

私はホッと胸を撫で下ろし、課長に頭を下げた。

「ありがとうございました」

「いや、それは良いんだが……。これは一体どう言う状況かな?ちょっと席を外していた間に何があったんだい?」

課長がまだ床に座っている和矢と、放心状態の新井麗子を見て質問して来た。

「実は……」

言い掛けたその時、和矢が「ふざけるな!」と声を上げながら立ち上がった。

課長のパンチがどうやらクリーンヒットしたらしく、足元はよろよろしている。

「三嶋!勝手に盗聴なんてしやがって!!ふざけんな!訴えてやる!!」

殴られた頬を押さえながら、ビシッ!と千歳を指さす。

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