身代わりペット
フーッ!フーッ!と興奮している和矢とは対照的に、冷ややかな目をしている千歳。

「別に良いけど?それならこっちも訴えさせてもらうから」

「なんだと!?」

「あんた、さっき紗月が浮気したって吹聴してビッチ呼ばわりしてたよね?これ、名誉棄損ね。あと、それをネタに脅して慰謝料をふんだくろうとしたよね?これ脅迫罪ね。あ、ちなみに言い逃れ出来ない様に今までの会話も録音してるから。この音声を警察に届ければ他にも色々罪名付きそうだけど、どうする?」

千歳が能面みないな顔で和矢に詰め寄る。

無表情で怒っている方が、なんだか迫力があって怖い。

「くっ……」

和矢が何も言えずに唇を噛みしめる。

すると課長が首を捻って和矢に問いかけた。

「君は、営業2課の高橋君だよね?迫田課長はこの事知っているのかい?」

「――っ!」

『迫田課長』と言う名前を出されて、和矢は更に唇を噛みしめて黙ってしまった。

少し、血がにじんでいる。

「――クソッ!!」

迫田課長の名前を出されて、和矢が捨て台詞の様にそう言い残してこのオフィスから出て行ってしまった。

新井麗子が「待ってよっ!」と慌ててそれを追いかける。

嵐が去ったオフィスに訪れる静寂。

「……ふ~。一時はどうなる事かと思ったけど、何事もなくて良かったわ」

そう言ってニコッと笑う千歳を見たら、急に足から力が抜けてその場にへたり込んでしまった。

「紗月!大丈夫!?」

「中条!!」

千歳と課長。左右、両脇を抱えられて、なんとか倒れ込むのは阻止出来た。

「だ、大丈夫……安心したら、一気に力が抜けて……」

課長と千歳が抱えてくれて、なんとか近くにあったソファーに座る。

「ごめんね。アタシがもうちょっと早く助けてあげられれば……携帯をロッカーに置き忘れちゃって、それに気付いて急いで取りに行ってたらあのクズが調子乗っちゃってて……」

ギュッと私の手を握ってくれる。

その手の温かさがじんわり心にも沁みて、千歳の優しさが全身に広がって行く。

「でも、なんで千歳があの音声を……?」

「ああ、よく行くカフェでたまたまあの二人を見かけてね。なんだかコソコソ話をしだしたから、念の為に、ね」

不敵な笑みを浮かべる千歳。

その不気味な笑顔を見て、今回は助かったけど頭の切れる人を敵に回したくはないな、と思った。
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