身代わりペット
「中条」

「わっ!」

急に横から声を掛けられて飛び上がる。

振り向くと、フーッ、フーッ、と息を荒くして顔を真っ赤にした課長が立っていた。

(え、なに?どうしたの!?)

目も据わっていて今にも飛び掛かって来そうな、すっごくヤバめな雰囲気。

周りのみんなも、何事かと作業を一時中断してこちらを見ている。

この感じ、この課長の様子。

どこかで経験したような……デジャビュ??

(あれ?これって、ダメじゃない?)

このまま行けば、課長の尊厳うんぬんが失われてしまう可能性が……。

背中に、スーッと冷や汗が流れた。

「課長!具合悪そうじゃないですか!医務室行きましょう!医務室!!」

私は鼻息の荒い課長の手をガシッと掴み、呆気に取られているみんなの間をすり抜けてオフィスを抜け出した。

目の端に映った千歳が、手をヒラヒラ振っていた様な気がするけど放って置こう。

廊下を速足で歩き、医務室に向かうと思いきや当然医務室などには行かず、使われていない会議室に二人飛び込んだ。

ガッチリ鍵を掛け、「空室」から「使用中」のプラカードに差し替える。

「課長、大丈夫ですか?」

課長の状況を確認すると、全く大丈夫ではなかった。

息は荒いし、顔も赤い。

「すまない……」

課長も辛いのか、深呼吸を何回もして落ち着かせようとしている。

「いえ、それは良いんです。私も心配で仕事どころじゃなかったんで」

椅子を引き出し、課長を座るように促す。

私も向かい合って座る。

課長が落ち着くまで、しばらく、沈黙が続いた。
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