さよなら流れ星
りゅうせい、と、掠れた声が口からこぼれる。
もう聞き慣れた声が気遣わしげにあたしの名前を呼んだのが聞こえて、思わず微笑んだ。
「はじめて…呼んでくれたね。」
『ご、ごめん。』
「なんで謝るの?嬉しいよ。」
ふらふらと歩き出し、知らない家のブロック塀に寄りかかる。
耳障りなセミたちの声は、夏の終わりが近づいていることを伝えようとしているみたいだ。
「あたしさ、お兄ちゃんがいるんだ。二つ上の。」
入道雲がぷかぷかと浮かんでいる。
ソフトクリーム食べたいなあ、と、今更ながら気づいた喉の渇きに唾を飲み込んだ。
「でもね、去年から学校にもバイトにも行かずに引きこもってるの。所謂ニートってやつ。」
足下にできた自分の影を見つめる。
ゆらゆらと揺れる影は、今のあたしを表してるみたいだ。
どこにも行けず、その場にゆらゆら立ち止まってる、あたしを。
「お兄ちゃんが引きこもり始めてから…明るかったお母さんは笑わなくなったし、お父さんは作り笑いが上手になったし…あたしは、なにも、できないし。」
流星の吐息が聞こえる。
「もう…嫌だよ…」
絞り出すように呟いた言葉。
電話越しの彼に届いたかはわからない。
幻みたいな陽炎と蝉の声。
太陽に隠れるように、その場にしゃがみ込んだ。