特別な君のために


「さすが奏多先輩!」

「すごーい、もう連れてきたんですか!」

「何て言って騙したの?」


騙したとは、人聞きの悪い!


「んー、騙した、とはちょっと違うな。カラオケ好きかどうか聞いて、放課後一緒に歌おうって誘って連れてきた」

「奏多! それまさに騙して連れて来てるから!」

「あー、ごめんね、訳がわかんないよね?」


面倒見のいい女子が、彼女に代わって俺を責め立てているけれど、気にしない。

「でも、せっかく来てくれたんだし、とりあえず練習見ていかない?」

そう、提案してみた。

消え入りそうな小さな声で、彼女が「はい……」と返事をした時には、みんなでガッツポーズ。

二年と三年に囲まれてしまって、緊張した表情の彼女。

そういえば、名前を聞いてなかった。後で確認しよう。


見学者がいる時の練習は、できるだけ堅苦しくない、ノリのいい曲をやることに決めている。

伴奏者に合図を送り、俺が指揮を振ったのは、ゴスペルだった。

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