その笑顔が見たい

今朝、母親が新聞を取りに行った時にポストに入っていた白い封筒をみつけたらしい。
今それはダイニングテーブルの上にある。
父親は仕事に出て行った。
母親も朝の家事をこなしながら仕事に行く準備を始めている。
葉月んちが突然いなくなっても日常は流れる。


僕はその封筒の中身を読みながら、小さな憤りを感じていた。
中には一枚の便箋。
それには短い文章が綴ってあった。


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諸事情で引っ越さなければならなくなりました。
ご挨拶もできぬまま去ることをお許しください。
長い間、大変お世話になり感謝しております。
ありがとうございました。

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まるで永遠の別れのような文章だ。
おじさんの字だろう。
力強い達筆な文字だった。


最後の一行には、おばさんの繊細な字で「美奈子さん、仲良くしてくれてありがとう」と母親に当てた言葉が綴ってあった。

それを見つけた母親が朝大声を上げるまで、葉月んちが出て行ったことをまるで気が付かなかった。
家財道具はいつの間に運び出していたのだろうか。
それらしい物音が聞こえたことはなかった。
葉月んちに何か事情があったに違いない。


だからって。
葉月も聡も僕に何も言わずに黙って出て行くか?


小さな怒りと大きな悲しみで僕の心は傷ついて、座ったまましばらく白い封筒を眺めていた。


「どうすんだよ、今年のクリスマス。ひとりで何するんだよ、プレゼントはいらないのかよ」


白い封筒が置かれているダイニングテーブルを思い切り拳で叩いて八つ当たりした。
ビクともしない薄っぺらい封筒は滲んで見えなくなった。



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