添い寝は日替わり交代制!?
お風呂に入るとホッと息をつく。
本当は名前呼びよりももっと話し合わなきゃいけないことがたくさんあるのに……。
ちょっとだけ落ち込む心春の脳裏にいろんなことが思い出されてキューッと胸の奥が痛くなった。
『こはちゃん』
無駄にかっこいい低い声。
ううん。無駄なんて思えないほどに似合っている体の底まで響くような低い声。
それに散々言われた陽菜の言葉。
『佐々木課長は心春のこと好きなんだって!』
『心春も佐々木課長のこと好きなんでしょ?』
うーーーーっと唸ると決意した。
そういうことも含めて話し合わなくっちゃ。
お風呂から上がるとキッチンに立つ貴也さんの隣に立つ。
すると頭に巻いていたタオルが大きな手につかまれた。
「ほらほら。
このままにしておくと風邪を引きますと指摘しましたよ?」
昨日のデジャブよろしく手を引かれドライヤーを持ってきた貴也さんに頭を乾かされた。
頭をグルグル回る色々なことをドライヤーの途中で言うことは諦めて、すっかり身を委ねると人に乾かしてもらうことの心地よさに気づいた。
温かくて優しく大きな手に安心する。
「はい。これで大丈夫です。」
「ありがとうございます。
佐々………貴也さん。
私も貴也さんの時に髪の毛を乾かしたいです。」
しばしの沈黙が言わなきゃ良かったという後悔に変わりそうだった。
それでもしてもらうばかりではダメだという思いが、やっぱりいいですとは言わせなかった。
「ありがとうございます。
私は、こはちゃんが寝るより遅く寝ますので、乾かしていただけるかどうか……。」
急に子ども扱いされて些かムッとする。
貴也さん呼びの効果なのか、ただ単に佐々木課長といると自然になれるのか……。
思ったことがそのまま口から出ていた。
「佐々木課長が休みの日は中島さんに合わせますとおっしゃったんです。
寝る時間も私に合わせてください。」
プッと吹き出されクスクスと笑う貴也さんにますますムッとする。
「それをわがままと捉えていいのでしょうか。
それにしては可愛らしいわがままですね。」
また子ども扱いされている気持ちになって、可愛らしいと言われても嬉しく思えなかった。
黙っていると貴也さんが言葉を重ねた。
「分かりました。
でももし気を遣われているのなら大丈夫です。
私は乾かす時、中島さんの髪に触れ癒されているので。
だから私から乾かすのをお願いしたいくらいです。
………あ、いえ。こはちゃんでした。」
肩を竦めて笑う貴也さんこそ可愛らしい。
なんの言い合いだったのか分からなくなって、とにかく顔が赤くなりそうで俯いた。
その頭にそっと大きな手が触れて、数回やさしく撫でられると貴也さんはキッキンへと向かった。
やっぱり今の手を私は知ってる!
自分が酔っ払って眠ってしまった時も、会社で居眠りしちゃった時も。
あれは貴也さん……というか佐々木課長だったんだ。
自分もキッチンの貴也さんの隣に立つと思ったことをそのまま口に出した。
「髪を触ると癒されるなんてあるんでしょうか。」
「こはちゃんの髪は前から触れたいと思っていました。」
「!!!」
聞かなきゃ良かった。
ものすごく恥ずかしくなってそれ以上の質問は出来なかった。