新宿ゴールデン街に潜む悪魔

尾行

「あいつと遭遇したわ。今尾行してる」

響に小声で報告をする。

「くれぐれも気をつけて。バレそうになったら止めてもいいですからね」


カシワギは駅に向かって歩いている。少し酔っ払っているのだろう。千鳥足でゆっくりと歩を進める。
15メートルほど距離をおく。そして目線はカシワギの足元だ。これはもし相手が振り返った時目が合わないようにする為である。ただ同じ方向に歩いている人間に見えなくてはならない。これは尾行の基本だ。

新宿駅が近づいてきた。人通りが多くなる。見失うわけにはいかないので距離を縮める。
改札を抜け、カシワギは丸ノ内線に乗った。同じ車両の対角線あたりに座り、週刊誌を読んでいるふりをする。

赤坂見附で降りる。駅前の大通りを渡り閑静な住宅街に進む。また距離をおいて付いていく。

「ワン!」

突然犬が吠えた。心臓が飛び出そうになる。今鳴いてくれるなよ。
しかしカシワギは振り返りはしなかった。ホッと胸を撫で下ろす。

カシワギがコンビニに入った。村岡はなに食わぬ顔でコンビニを通りすぎる。次の小さな交差点で待つ。
3分ほどしてカシワギはウイスキーを買って出てきた。尾行を再開する。

そして、5分ほど歩き、カシワギはマンションに入っていった。5階建ての古いワンルームマンションだ。「あんなに金持ってるのに意外と質素なとこ住んでんねんな」と村岡は思った。広くて豪華なマンションに女とでも住んでいるとイメージしていたからだ。
オートロックはついていないことを確認する。
マンションの中まで付いていくと明らかに怪しいので、外から眺める。4階の部屋の電気がついた。

「あそこやな」

村岡は確認してから4階に上がる。403号室だ。扉には麻生(あそう)と書かれている。カシワギではないのか。
帰路につく。
尾行成功だ。

地図のアプリを出してその場所に印をつけた。

それにしても。
響は何をする気だろうか。
またくだらなくて楽しいことをしでかすに違いない。
響の本音も知らず村岡はそう思った。

響に電話する。

「ヒビちゃん尾行成功やでー。赤坂見附のマンションや」

「ほんとですか。さすが村さん。やっぱり餅は餅屋ですね」

「ただな、ドアには麻生って書いてあったで」

カシワギと書くわけにはいかないだろう。全くの違う名前か、その麻生という人物に部屋を借りて潜伏しているかのどちらかだ。

響はそう思った。
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