新宿ゴールデン街に潜む悪魔

マスコミ

1年前のある日。

「この度は本当に申し訳ないことをしてしまったと猛省しております。遺族の方々にはなんとお詫びをしていいやら…」

響は昼間テレビでワイドショーを見ていた。画面の中では医療ミスをした病院の院長が歯切れ悪く謝罪会見をしている。

「人の命を奪ったんですよ!どう責任とるんですか?」

「それは…私が責任をとるという形で辞任しまして…」

「それは逃げではないですか?あなたが辞職したところで何も変わらないと思いますが」

「はい…今後このようなことが起こらないよう徹底して指導していく所存でございます」

「具体的にはどういったことを?」

「それは…」

「まだ考えていないと。そんなことで大丈夫なんですか?」

「熟考してですね、徹底して…」

「何を徹底するんですか?」

矢継早に、マスコミの質問は続く。院長はたじたじである。
どうやら、看護師が点滴の種類を誤り、患者を死亡させてしまったということらしかった。

「事故を起こした看護師は出てこないんですか?」

「それは…彼女も深く反省しており、遺族の方々にも謝罪に行っておりまして」

「顔は出せないと。人殺しをしておいて」

そこで響は何か違和感を感じた。なんだろうか。

灰色のパンツスーツを着たショートカットの女性が言う。

「人は誰だってミスはするものですよ。皆さんは卵焼きを、焦がしたことがないんですか?」

急に擁護するような発言。場がざわめく。

「謝罪してなんになると言いますが、ここでああですか?こうですか?どう責任とるんですか?と言ったところでそれこそなんになるんですか?」

最もなことを言う。だが、それはマスコミの発言らしからぬものだった。

そこで響は目を疑った。香だ。灰色のパンツスーツの女性は香だった。

知らなかった。普段から人には話させておいて自分の情報は言わないところがあった。数年間香の本職について聞いたことがなかった。いや、聞いたかもしれないが

「プー太郎だよ」

とはぐらかされた気がする。

記者会見は続いている。香が一石を投じたが、関係ないとばかりに、延々と院長を責めるような発言が飛び交う。


記者会見が終わったであろう時間帯に、香に電話する。

「見たよ」

香はすぐに察したようだ。

「バレちゃった?別に隠してた訳じゃないんだけどね」

照れたように笑う。

「ちょっとかっこよかったよ」

「あはは。かっこいいかなと思って言ったんだよ」

「ただ、マスコミには向いてないのかもしれない」

「そうかもしれないね」


< 27 / 35 >

この作品をシェア

pagetop