たとえこの身が焼かれてもお前を愛す
「侍女は下級貴族の娘と決まっております。それを奴隷の娘など」


「おい、さっきから奴隷奴隷と連呼するな」


「ですが、奴隷ですので?」

何かおかしなことを言っただろうか?そんな顔のコンラートだ。


エルンストはため息をついた。

確かにフィーアは奴隷だ。この肩書は一生ついてまわる。

そしてこの昔気質の頭の固いジジイは”名門の恥だの、やれ奴隷が...”などと難癖をつけてフィーアを屋敷から追い出そうとするかも知れない。

貴族のしきたりがなんだと言うのだ?
たとえ奴隷だろうが、優れた人材を登用するのは理にかなっている。
....まだフィーアが優れているかどうかは不明だが。

ふとエルンストは自嘲気味に笑う。

偉そうなことを言っている俺自身が、昨日の晩フィーアを奴隷と見下して抱こうとしたではないか。


「....あれは魔性の女だ」
自責の念に囚われながらも、そうつぶやいてしまう。

自制が効かなかった。どうしても自分のものにしてしまいたかった。それが、フィーアに対する愛情ではないことも自覚している。
娼婦と一緒。ただ抱きたかった。そこに愛はない。

奴隷と言う身分を考えれば俺に媚びて当然なのに、むしろ牙をむいた。毅然とした態度で純潔を守た。

エルンストは宮廷の美姫たちが放っておかない美男子だ。そして彼女らは色目を使いすり寄って来る。
そんな女どもに正直うんざりしている。


フィーア...。あんな女初めてだ。



「ご主人様、いかがいたしましたか?」

コンラートは黙り込む主人を怪訝そうに見つめた。
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