たとえこの身が焼かれてもお前を愛す
太陽に顔を背け歩く姿はいかにも罪人らしく、黙々と足を動かしひたすら目的地を目指す。


喋ることも景色に目をやることもしない。



「もうすぐ町の広場だ。高く売れるようにいい顔しろよっ!」


商人の男はまたしてもムチを打つ。


こんな苦しい行軍でいい顔などできようはずもない。

飲まず食わずで一日中歩かされたのだから。

それでも彼らは歩き続けるしかなかった。生きる意味を感じながら。


奴隷に人権はない。それどころか、どこへ行っても忌み嫌われ家畜同然の存在。いや、家畜の方が大切にされていたかもしれない。

牛だの豚や羊はまだ見た目に可愛げがある。しかし同じ二足歩行で同じ言葉を喋る奴隷と言われる人間は同種からして無性に腹が立つらしい。

人間の奥底に潜む残虐性を誰もが過分なく呼び起こしてしまうようだった。


今まで買われて行った奴隷が幸せになったためしはあるのだろうか?

神のみぞ知る。そんな運命を甘んじて享受しなければならい彼らに、もはや希望という二文字は意識から欠落していた。



と、数メートルも歩いていない所で最後尾の奴隷女が苦しさに耐えきれず倒れた。

女の腰につけられた鎖は、前を歩く数人の奴隷を道ずれにしてしまい、女に引きずらるようにバタバタと倒れ込む奴隷たち。
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