たとえこの身が焼かれてもお前を愛す
────ある日、フィーアは庭でユリの花の手入れをしていた。

フィーアはユリの花が大好きだったから、特に手入れには心を込めていた。
植物は丹精こめて育てれば人間の誠意に答えてくれる。フィーアは信じていた。

まず咲き終えた花はすぐに取り除く。こうすることで球根に栄養が行く。すると来年また沢山の花を咲かせてくれる。


「ふう」しゃがむ姿勢が辛くなり、一度立ち上がる。


「今日もいいお天気」


見上げた空には白い雲がまばらに浮かんでいた。視線の先には入道雲が見える。

この国は大陸性気候なので夏は朝晩涼しいものの、太陽が月を押しのけて席巻している時間帯はかなりの暑さになる。
ひたいには汗の粒が浮かんでいた。



「フィーア」コンラートがすぐ横に立っていた。

コンラートにまだ苦手意識があるフィーアだ。

自分にまだまだ嫌悪感を抱いているような気がしてならない。

「は....い」不安そうに手についた土を払いながら立ち上がる。


「すまないがこれをご主人様に届けてくれないか?」

皮の封筒に入った書類を差し出される。

「忘れて行かれたのだ」


フィーアは少し困惑した。
シュバルツリーリエと言えば皇帝付の騎士団。

エルンストの執務室はお城の中にある。
私が行っていいものか?

余程のことが無い限り奴隷とばれる心配はないと思うが、万が一と言うこともある。
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