愛の消息
ホテルに着き、部屋に入る。

「アイ」

黒田さんが少し低めの声で呼ぶ。その声に頬を赤くしながら近づく。ふわっと香るムスクの匂いに倒れそうになる感覚を覚えながら黒田さんに身を任せた。


そう、私の名前は愛なのだ。彼女がつけた名前だ。


彼女は、母は、私の母は何を思って、どんなつもりでこんな名前をつけたのだろう。私とあなたに相応しくない名前を。


若くして私を産み、子育てに縛られ、キラキラしていたホステス嬢から春を売る仕事に転職。生きるために必死で働いていた彼女は、次第に心の具合を壊した。
締め切ったカーテンのそばで大量のアルコールを浴びるように飲み、私の髪を掴み歪な笑みを浮かべながら強く揺らす。あんたなんか産まなきゃよかったと私を叩く。私がいくら泣き叫んでもやめてくれなかった。
ご飯は作らず、自分が食べたい時に自分の分だけ作り、洗わない。私が小学生になる頃にはすべての家事を私がやっていた。

お母さんは疲れている。お仕事が大変なんだ、と言い聞かせながらこなしていた。憎くて仕方なかった。なんで私は愛されないのだろうと思った。


そんな彼女はなんで私に「愛」なんかつけたのだろう。愛せないならなんで。



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