愛の消息
泣いている私を黒田さんが後ろからそっと抱きしめながら言った。

「愛、大丈夫だよ。俺がいるから、愛してるから。もう大丈夫だよ。」

ああ、この言葉を母にも言ってあげてほしい。そんなことを思った私は、人生の記憶から母を切り取ることができないのだと再確認した。誰か憎い母を、可哀想な母を愛してあげてほしい。


お母さん、あなたから受けた傷は消えない。今も記憶からあなたが顔を出すことを怖がっていきている。でも、この心臓が出来たのはあなたのおかげ。元気に脈打ってるのはあなたのおかげ。



私は、
愛すことは難しいことだと知った。
愛されることは苦しいことだと知った。
人の心は見えないから難しいし、悲しいし苦しい。
目に見えないモノを育むなんて、私には出来ないと思い知った。母もきっとそうなんだと思います。似てるんだと思います。腐っても親子ですから。
でも、それでも私は、あなたからの愛情を欲しがっていた。愛して欲しかった。愛がほしかった。ただ、それだけだったのです。


「愛、幸せになろう。」
黒田さんが目に涙をためながら私に微笑む。
「うん、そうですね。」
黒田さんの涙を拭きながら微笑み返す。



お母さん、
幸せって、愛って分からないですね。
でも、きっと温かいものだと思います。
「愛」がどんなものなのか知っていく、
これが私の一生の課題なのかもしれません。


次、彼女に会えたら、こんなことを言おう。

それまでどうか、息をしていて。
生きていて。

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