あの日から、ずっと……
 その日、家に戻ると、父が珍しく早く帰って来ていた。

「芽衣…… ちょっと大事な話があるんだ……」


「なに?」

 芽衣は、アイスの買い食いがバレてしまったのかと、ドキドキしながら父の隣にちょこんと座った。


 父は、仕事が忙しく帰りはいつも芽衣が寝る頃だ…… 
 海外出張も多くて、あまり一緒に遊んでもらえなかったが、やさしい父が芽衣は大好きだった。

 母は、まだ一歳になる弟の世話に追われていて、お爺ちゃんとお婆ちゃんが、芽衣の面倒を見てくれていた。



「あのな、芽衣…… 実は、パパの仕事の都合でアメリカへ引っ越ししなければならなくなったんだ……」


「ええっ! いつ? 大きくなったら?」


 父は、大きな腕で芽衣を膝の上に抱き、優しく頭を撫でた。


「夏休みが終わったらだ……」


「お爺ちゃんと、お婆ちゃんも一緒?」


 芽衣の必死で問いかける目に、父は大きく首を横に振った。


「いやだ! 芽衣も、爺ちゃん達と一緒にここにいる……」


「芽衣……」


 父は切なそうな顔で芽衣を抱きしめた。


 爺ちゃんと婆ちゃんの目にも涙が溜っている。


「芽衣ちゃん、大丈夫だよ…… 爺ちゃんも、田んぼが終わったら、アメリカに遊びに行くで、先に行って芽衣ちゃん、爺ちゃんにアメリカの事教えてくれな……」

 爺ちゃんが、必至で笑顔を見せるが、芽衣は大きな声を上げて泣き出した。
< 3 / 28 >

この作品をシェア

pagetop