ヒトツバタゴ


「…考えといてやるよ」



そう言って通路から出てきた早川さんとバッチリと目が合い、慌てて踵を返し宴会場とは逆方向へ逃げた




先程利用したお手洗いを通り過ぎ、お食事処を抜けて左手にあった通路に入った




ふぅと息を吐くと短い通路の突き当たりの右側に『休憩処』と書いてあるのを見つけ、歩を進める



休憩処にはいくつかのソファとローテーブルが置いてあり、セルフでコーヒー等のドリンクも飲めるようになっていた



休憩処の反対側には中庭へ出られるガラス戸があり、休憩処には入らずにその戸を開ける




中庭に出られるように用意されていた下駄のひとつを引っ掛けて館内から漏れる明かりと足元を照らす灯篭のオレンジの灯りを頼りに砂利を踏み進む




日が暮れて気温もぐんと下がり少し肌寒い




歩きながら思い出すのは先程の早川さんと吉倉さんのやり取り





ペア旅行に誘うってことは…




好きだからよね…





相手に好きって伝えることだって怖いのに



旅行に誘うなんて…




私なんて橘がいつものように「いつ行く?」って聞いてくるのを待ってるだけで…






< 117 / 178 >

この作品をシェア

pagetop