ヒトツバタゴ


1歩こちらに近付き今度は私の右手を握り歩き出す


「左手は温まっただろ?今度は右手」



強く握られた冷えきった右手にじんわりと橘の温かかさが伝わる



それが心地よくて、振り払えずに引っ張られるままに橘の後を追う




ホームの人の多さに指定席取っておいて良かったと安堵する


「さつき席どこ?」と問われ、左肩にかけていた鞄のポケットから左手で切符を取り出すと橘が覗き込む





私の座席を確認してクスクスと笑い出した橘に眉を顰めながら、入ってきた電車に乗り込む


私の座席の列まで進み、私の左肩から鞄を取り上げ上の棚に乗せ、自分の荷物も棚に乗せる



え?



考える間もなく私は奥の窓側の席に押し込まれ、隣に橘が座る


私の右手は橘の左手に繋がれたまま…




「俺ここの席」


見せられた橘の切符には、確かに私の隣の座席が記されていた



偶然…?にしては出来すぎている…



でもこの男がここまでするか?



走り出した電車の窓の外を眺めながら、答えの出ない自問自答を繰り返す




11年間ほぼ毎日のように顔を合わせていても本当に思うことは少しもわからない





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